SHOUJI TIMES

全国紙の元記者の視点から時事問題に関するコラムを発信

ペロシのリトマス試験紙

 アメリカのペロシ下院議長のアジア訪問は、各国の対中忖度(そんたく)のリトマス試験紙の役割を果たしたと言えよう。台湾は真っ赤、韓国は真っ青、そして日本は、いつものように赤でもなく青でもなく、紫か?

 ペロシ議長を含むアメリカ議員団が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談したことに中国は猛反発し、台湾を取り囲む形で大規模な軍事演習に踏み切った。中国はミサイルを発射し、日本の排他的経済水域内に5発も落下させたが、これに対する政府の態度は、いつもの「遺憾砲」だった。実弾ではなく、空砲だ。中国には痛くもかゆくもない。ASEAN東南アジア諸国連合)の会議で同席しながら、日中外相会談を中国から一方的に破棄されても、林外相は何の反応も示せなかった。外相の資格なし。

 

 韓国は、訪韓したペロシ議長を政府高官が誰も空港で出迎えなかった。ユン大統領はソウルに居るにもかかわらず、休暇中であることを理由に直接会うことはせず、電話会談で済ませた。韓米同盟など、所詮この程度のものだ。最大の貿易相手国である中国を怒らせるのは得策ではないと踏んだのだろう。国益全般を考えての措置だというのだから。国防より経済優先。かえって中国に足元を見られるだけだというのが分かっていないらしい。限韓令というのがあって、中国でひと頃、韓国の製品や文化だけが除外されたことがある。中国からの観光客が来ず、韓国製品やテレビドラマは中国で売れず、韓国はお手上げ状態だった。中国が一喝すれば韓国は震え上がる。虎の前のネズミ同然だ。

 

 日本はどうか? まだオオカミ程度には牙をむけるのだろうか? それともヒツジか?

従順で純朴。中国が吹く笛の通りにオリに入って行く。林芳正外相が親中派であることは既に述べた。任命した岸田首相は林外相とは長年にわたって宏池会の盟友であり、思想信条をほぼ同じくする。安倍元総理や菅元首相とは中国への向き合い方が全く異なる。

 

 日本の新聞、テレビも岸田・林ラインと軌を一にする。反中的な記事や映像を流すと中国から猛反発を受け、不買運動や広告費削減の憂き目に遭う。ただでさえ新聞離れ、テレビ離れが進んでいるのに、そんな事態は真っ平ごめんだ、と経営幹部が考えても不思議ではない。記者も反中記事を書けるような骨のある人間は少ないし、仮に書いたところでデスク段階で削られるだろう。事実関係のみを淡々と書け、と。

 

 かくして日本は弱体化する。台湾をぐるりと囲んだ軍事演習の地図を見て、いずれはこれが尖閣諸島沖縄本島、さらには日本列島に拡大移行するのではないか、と想像した日本人は多いのではないか。その時はロシアも参加するかもしれないし、北朝鮮も飛び入り参加するかもしれない。「日本は海に囲まれているから安全」、と信じられて来たが、これからは「海に囲まれているからこそ敵にも囲まれる危険性がある」、と認識しなければいけなくなるだろう。その前に中国にシーレーン海上交通路)を破られ、石油をはじめとするエネルギーや食糧など一切、日本に入らなくなって来るだろうが。

 目を細め、時折メエ~と鳴きながら草原で草をはむ岸田政権。牧歌的な風景だ。